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                                               14盛 監 第26号
                                               平成14年8月15日

請求人
 伊 勢 昭 一 様
                              盛岡市監査委員 本宮秀孝
                                    同    高木智徳
                                    同    村井欽司
                                    同    土方誠子

     盛岡市職員措置請求(盛岡市長に関する分)について(通知)
  平成14年6月20日付けで請求のあった地方自治法(昭和22年法律第67号。以下「法」とい
 う。)第242条第1項の規定に基づく標記措置請求について,同法同条第3項の規定による監
 査を行ったので,その結果を次のとおり通知します。


                        記
  第1 請求の受理
   本件請求は,所要の法定要件を具備していると認め,平成14年7月3日これを受理した。

  第2 監査の実施
  1 監査対象部課等
    監査は盛岡市財政部財政課及び盛岡市水道部を対象に実施した。
   2 監査の期間
     平成14年7月9日から平成14年8月9日まで
   3 請求人の証拠の提出及び陳述
    請求人に対して,法第242条第5項の規定により,平成14年7月16日に証拠の提出及
   び陳述の機会を与えた。請求人は,証拠として次のものを提出し,請求の趣旨を補足する
   陳述及び陳述書の提出を行った。
     証拠の提出
    ・図「給水量と人口の推移」(簗川ダムからの取水分を加筆)
    ・岩手県公共事業評価委員会第3回県土整備部会資料「11盛岡市と矢巾町の水道計
       画について」
    ・岩手県公共事業評価委員会第2回県土整備部会資料「4 費用対効果の算定につい
        て」
    ・岩手県公共事業評価委員会第3回県土整備部会資料「3 治水代替案の比較につい
        て」

   4 関係職員調査
    盛岡市水道部の関係職員に対し,平成14年7月31日事情聴取を行った。
   5 監査対象事項
    措置請求書,事実証明書及び証拠の提出並びに陳述等から,監査請求の趣旨を次のよう
   に解し,監査対象事項とした。
  (1)基本協定と第7次拡張事業変更認可について
     盛岡市水道事業者は,平成5年3月18日,河川管理者岩手県知事らと「簗川ダム建
    設事業に関する基本協定」を締結(以下「基本協定書」という。)した。
     これは,盛岡市水道事業第7次拡張計画変更認可に基づき,目標年次(平成28年度)
    の給水人口を386,650人,1日最大取水量を210,960m3と予測し,不足分31,000m3/日
    を簗川ダムから新たに取水しようと計画したことによる。
  (2)基本協定書に定める事項及び予算等について
     工事費概算額が340億円,盛岡市の負担割合は9.50%とされ,盛岡市水道事業管理者
    は,平成4〜18年度,総額32億3,000万円の継続費を決定した。平成13年度は変更協
    定書を締結し簗川ダム建設負担金として1億9,950万円を支出した。また平成14年度
    水道事業会計予算においても1億2,350万円の支出を計上している。
  (3)盛岡市長に係る予算執行等について
     ダム負担金に充てるため,水道事業管理者からの交付請求に基づいて,盛岡市長は,
    平成14年3月29日,水道事業会計に対する出資金6,650万円を支出した。さらに,平
    成14年度当初予算においても,盛岡市長は,同出資金を支出することにしている。
   は)水需給計画の見直し,市長の議会答弁,請求内容を補足する陳述について
     基本協定締結後における人口増の停滞,一人当たり原単位の伸び悩み等により予測と
    現実の帝離が拡大したため,平成11年6月,盛岡市は水需給計画を見直した。
     その結果,平成28年度の給水人口が311,500人,1日最大給水量が133,900m3とな
    り,簗川ダムからの取水を含まない給水能力の169,150m3でも約35,250m3の余裕が生
    じ,将来の水需要に十分対応できることが明らかとなった。このことは,盛岡市が行っ
    た水需給計画の将来人口予測において,5つの回帰式の中で最も当てはまりの良い修正
    指数を採用せず,当てはまりの悪いロジスティック式を採用しているので過大な予測の
    可能性が濃厚である。
     盛岡市長が,盛岡市議会において,簗川ダムからの取水開始は御所浄水場の稼動(平
    成23年度予定)後おおむね40年から50年後と答弁していることから,相当期間にわ
    たり取水が不要となった事実を十分認識していることも明らかである。またダム建設事
    業は100年間の堆砂量を見込んだ総貯水量をもとに設計されており,仮に将来において
    取水が行われたとしても取水可能期間は大幅に短縮され多額の無駄が生じることは明
     らかである。
  (5)基本協定書の変更協議について
     基本協定書を締結した水道事業者盛岡市長は,基本協定書第3条の定めによる負担割
    合で,盛岡市が負担金を支出する責任を負っているにもかかわらず,簗川ダムからの取
    水が当面必要がなくなった事情により基本協定書第10条に基づく協定内容の変更を協
    議すべきであったが,これを怠った。
  (6)違法又は不当な支出について
     基本協定書の変吏協議を怠ったままに,不要なダム建設負担金に当てるため,一般会
    計から水道事業会計に対する出資金の支出を続けたことが,違法又は不当な支出に当た
     る。
  (7)措置請求内容について
     以上により盛岡市長に対し,@平成14年3月29日付で支出した水道事業会計に対す
    る出資金6,650万円の返還及び,A平成14年度同出資金の支出差し止めを求める。


 第3 監査の結果
  1事実関係の確諷
  (1)基本協定書について
     岩手県は,昭和53年から北上川水系簗川の水害の防御,流水の正常な機能の維持,
    かんがい用水,水道用水の供給及び発電を目的とする簗川ダム建設に係る予備調査,実
    施計画調査をし,平成4年4月1日に簗川ダムが建設事業として採択されたことにより,
    簗川ダム建設に関する工事を河川管理者岩手県知事,かんがい事業者岩手県知事,水道
    事業者盛岡市長,水道事業者欠巾町長及び電気事業者岩手県企業局長の各利水者が共同
    事業者としてダム開発をするため,平成5年3月18日に基本事項の協定を締結し現在
     に至っている。
     なお,基本協定書には,第2条第1項第4号で簗川ダム建設工事費概算額340億円が
    定められ,同第3条第1項で共同工事の施工に要する費用の負担割合を定め,丙(盛岡
    市水道事業者)の負担割合は,9.50%と定められている。
     また,盛岡市水道事業者が基本協定書の締結に至るまでの過程は,次のとおりである。
     昭和58年 3月 岩手県が未普及地域の解消,水道事業の再編成,水道広域化施設の
            整備等の推進を目標とする「岩手県水道整備基本構想」を策定する。
              この岩手県水道整備基本構想には,盛岡広域水道圏の昭和75年の
            水需給について新ダム建設後も14,292m3/日不足すると予測している。
     昭和59年 8月 岩手県水道整備構想に基づき,簗川ダム,丹藤川ダムを開発水源と
            する水道広域化の協議を行う盛岡広域水道圏連絡協議会(1市4町4
            村による。以下「連絡協議会」という。)を設立する。
     平成元年 6月 岩手県が盛岡広域水道圏域の1市4町4村に対し,築川ダム,丹藤
            川ダムへの利水及び広域化に関するアンケート調査を実施する。
             盛岡市は,将来的なまちづくりに対応する水源として,第7次拡張
            事業の新庄浄水場,第8次拡張事業の御所浄水場以降の水源として位
             置づけ,18,000m3/日必要と回答する。
     平成 2年 3月 岩手県に簗川ダムに係る上水道利水計画の意思表示をする。
              盛岡市18,000m3/日 矢巾町5,000m3/日 都南村20,000m3/日
              滝沢村5,000m3/日(御所ダムと振替条件) 計 48,000m3/日
              岩手県からダム利水上限値が36,000m3/日と示され,連絡協議会は
              12,000m3/日の減量調整が必要となる。
   平成3年1月 連絡協議会が,次のことを了承する。
           ア 御所ダムは,全量盛岡市が単独で開発すること。
           イ 簗川ダム利水参加は,圏域南部の小ブロック化で対応すること。
   平成3年2月 連絡協議会が,次のことを了承する。
           ア 簗川ダムへの参加を振替利水とする条件のもとに要望してい
            た滝沢村が,利水参加を見送ること。
           イ 調整を必要としていた12,000m3/日については,滝沢村の撤回
            分5,000m3/日と盛岡市が残利水量7,000m3/日を減量すること。
   平成3年4月 連絡協議会が,次のことを確認する。
           ア 丹藤川ダムは,構想段階であることから,具体化した時点で利
            水参加の調査研究を進めること。
           イ 簗川ダムは,利水参加をする盛岡市,矢巾町及び都南村の3市
            町村で一般広域水道企業団として参加すること。
   平成4年3月 岩手県は,厚生省(現厚生労働省)と協議をし,ダム建設負担金の
         国庫補助導入の了解を得たが,施設設備の一般広域水道企業団への新
           規補助の採択はできない。
    平成4年4月 盛岡市と都南村が合併
   平成4年10月 連絡協議会が,調整結果として,次のことを岩手県に報告する。
           ア 丹藤川ダムは,まだ構想段階であるので将来ダム事業が具体化
             した時点で特定広域化の企業団を目指すこと。
           イ 簗川ダムは,盛岡市,矢巾町がそれぞれ単独で利水参加し,取
            水施設など施設整備は共同で対応すること。
           り 利水参加水量は,盛岡市31,000m3/日,矢巾町5,000m3/日と
             すること。
   平成4年12月 岩手県は,連絡協議会の調整結果を受けて厚生省(現厚生労働省)
          と協議をし,了解を得たことにより,水道事業者に対し水道事業課可
          事務を早急に取り進めることを指示した。
   平成 5年 3月 基本協定書を締結
 (2)平成13年度の変更協定書について
   基本協定書第3条第2項及び第4条第2項の規定に基づき,平成13年度の共同工事
  費の負担額について,平成13年7月5日に締結した協定書第3条第1項に定める「負
  担額(うち丙(盛岡市水道事業管理者)の負担額1億7,100万円)」を「負担額(うち
  丙(盛岡市水道事業管理者)2億3,750万円)」に変更する変更協定書を平成14年3月
  14日に締結している。
 (3)盛岡市水道事業第7次拡張計画変更認可について
   盛岡市長は,昭和63年1月14日に認可されている新庄浄水場建設を主とする第7次
  拡張事業の事業変更を平成5年11月16日厚生大臣(現厚生労働大臣)に申請し,平成
   5年12月17日に盛岡市水道事業変吏(第7次拡張事業変吏)認可されている。

   変更後の主な内容
   目標年次 平成28年度 計画給水人口  385,640 人
              1日最大給水量 198,280 m3
    第1期 昭和63年度から平成7年度‥‥‥中津川水源開発
    第2期 平成8年度から平成20年度‥‥‥御所ダム水源開発
    第3期 平成21年度から平成28年度‥‥‥簗川ダム水源開発
   事業変更の理由は,次のとおりである。
   盛岡市が,平成4年4月1日に都南村と合併したことにより水道事業と簡易水道事業
  を盛岡市水道事業に統合し,給水の安定化,給水サービスの向上及び経営の効率化を図
  るとともに,盛岡南地区開発,盛岡駅西口開発等の都市開発・整備と市村合併により市
  勢の発展が想定され,人口の増加及び水需要の増大が予想されることから,第7次拡張
  事業として実施している新庄浄水場以降について,平成28年度までの第3期にわたる
  盛岡市水道長期計画により,将来的に水量及び水質的に不安定な水源の統廃合を行い,
  既に確保している御所ダムの水源開発,さらに新規参画する簗川ダム水源開発と当該ダ
  ム開発において取水施設から配水施設の一部までを矢巾町との共同施設により実施す
  るため行うものである。
   このことから,給水区域の拡張,給水人口及び給水量の増加並びに新規水源開発によ
  る水源種別,取水地点及び浄水方法を変更するものであり,以上の水道事業の変更に関
  する意思決定に関しては,平成5年9月盛岡市議会定例会において,盛岡市水道事業の
  設置等に関する条例の一部を改正する条例の議決を得ているものである。
 は)盛岡市水道事業会計予算等について
  @ 簗川ダム取水事業の継続費について
   簗川ダム取水事業の継続費については,総額32億3,000万円と平成4年度から平
  成18年度までとする年割額を定め,平成4年度盛同市水道事業会計補正予算(第4
   号)として平成5年3月盛岡市議会定例会において議決を得ている。
  A 簗川ダム負担金の支出について
   平成13年度簗川ダム建設負担金の変更協定書に基づく負担額の変更については,
  平成13年度盛岡市水道事業会計補正予算(第2号)として,平成14年3月盛岡市議
   会定例会において議決を得,平成14年3月29日に実施伺兼支出負担行為書に基づき
   水道事業管理者の決裁を得た後,平成14年4月10日に岩手県知事に1億9,950万円
   を支出している。
    なお,当該変更協定書に基づく残額3,800万円は,平成13年度水道水源開発等施
  設整備費補助金及び貸付金が厚生労働省の平成13年度繰越額となったことにより,
   継続費逓次繰越額として平成14年度に繰越し,平成14年6月盛岡市議会定例会に平
   成13年度盛岡市水道事業会計継続費繰越計算書により報告している。
  B 平成14年度予算について
    平成14年度盛同市水道事業会計予算は,平成14年3月盛岡市議会定例会において
   議決を得ている。その予算内容のうち,1億2,350万円は資本的収入及び支出に係る
   支出で,第1款資本的支出 第2項建設改良費 第5目水源開発費 第2節ダム使用
   権分担金 細節ダム使用権として計上されている。
 (5)盛岡市長の予算執行等について
    新たな水源開発についての国庫補助制度である平成13年度水道水源開発等施設整備
  補助金の交付決定を受けた平成14年3月22日付盛岡市水道事業管理者からの出資金の
   交付申請に対し,盛岡市長は,総務省自冶財務局長通知「平成13年度の地方公営企業
  放出金について」に基づき,同月27日に出資金の交付決定をし,盛岡市水道事業管理
  者からの出資金交付請求書により同月28日に支出決定をし,同月29日に支出されたも
   のである。
    なお,平成14年度盛同市一般会計予算は,平成14年3月盛岡市議会定例会において
   議決を得ている。
 (6)水需要計画の見直しについて
   水需要計画の見直しは,第三次盛岡市総合計画後期実施計画と盛岡市水道基本計画後
  期実施計画の策定の指標とするために行ったものであり,計画策定における主たる事業
   となる御所浄水場の稼動時期を明確にすることを基本として行ったものである。水需要
  推計表によれば,平成28年度の給水人口は311,500人,1日最大給水量は133,900m3,
  施設の給水能力の合計は169,150m3である。
    また,人口予測については,平成元年から平成10年までの実績値をもとに「水道施
  設設計指針」に示されている5つの回帰式により推計したが,いずれも相関係数が高く,
  将来の社会情勢の変化や市勢の進展を考慮し,ロジスティック式が妥当として採用した。
 (7)盛岡市長の議会答弁について
    平成13年9月盛岡市議会定例会の一般質問に対しての答弁で,その要旨は次のとお
   りである。
  @ 水需給計画の見直しを行い,平成28年度時点の給水人口及び1日最大給水量を予測
    したこと。
  A 御所浄水場の稼動予定を平成23年度とし,稼働率75%と考えていること。
  B 簗川ダムから取水を行う時期は,現在の盛岡市の人口動態で単純に計算すると,御
    所浄水場稼動後おおむね40年から50年後と考えていること。
  C 広域的な対応は,岩手県水道整備基本構想で方針を示しており,盛岡広域水道圏に
   おいても長期的には盛岡広域水道事業の創設が方向付けられていること。
  D 水道の広域的防災対策は,岩手県水道広域的防災構想で実現可能な具体的防災対策
    をとりまとめており,盛岡市においては,矢巾町,滝沢村と災害時の水道水を相互融
    通できるよう整備していること及び今後も整備を進めること並びに簗川ダム水源は
    広域的な必要があると考えていること。
  E 簗川ダム取水計画に至る関係町村との協議経過についての説明。
   F 簗川ダムは,盛岡市周辺では水源開発可能な最後のダムと考え,ダムの貯水機能は
    安定した水道水源とリスクに対する安全性向上等その効果が期待されること及び盛
    岡市の50年,100年先を見据え,水道事業の使命を果たしていくために,簗川ダム水
   源は長期的な水源として確保すべきであると考えていること。
 (8)ダムの耐用年数と総貯水量に係る取水の関係について
    岩手県は,平成3年8月に作成した「北上川水系簗川総合開発事業計画書簗川ダム」
   の「11.貯水池使用計画(6)総貯水容量」の項において,有効貯水容量を19,600,000m3,
   これに流域の状況等を考慮し,比堆砂量を200m3/km2/年,堆砂容量2,400,000m3を確保
   し,総貯水容量22,000,000m3と計画している。このうち利水容量は,9,600,000m3(う
   ち,水道用水3,800,000m3)である。
 2 監査委員の判断
   以上の事実確認に基づき,次のとおり判断した。
 (1)簗川ダム建設事業に関する協定書について
    簗川ダムは,北上川水系簗川に多目的ダムとして建設されるもので,簗川総合開発の
   一環として岩手県が施工するものである。
    ダムは,洪水調節,流水の正常な機能の維持,かんがい用水,水道用水の供給,発電
   を目的にするものであり,盛岡市が利水参加をするまでの主な経過は次のとおりである。
   @ 昭和58年に岩手県は,「岩手県水道整備基本構想」を策定し,その中で「盛岡広域
    水道圏」の昭和75年(平成12年)の水需給は新ダム建設後も不足すると予測してい
    ることから,水道広域化を協議する「盛岡広域水道圏連絡協議会」を設立した。
  A 岩手県が盛岡広域水道圏域に対して,塵川ダムへの利水調査を行った結果,圏域で
    48,000m3/日(うち,盛岡市は18,000m3/日)を必要としたが,岩手県から利水上限
    が36,000m3/日とされ,12,000m3/日(盛岡市は7,000m3/日)の減量調整をしている。
   B 簗川ダムへの利水参加は,盛岡市,矢巾町,都南村の3市町村の一般広域水道企業
    団とする確認がされていたが,その後,一般広域水道企業団には,施設整備の国庫補
    助の新規採択はできないとされた。
   C 平成4年4月盛岡市と都南村が合併し,都南村が利水参加表明している20,000m3/
    日を盛岡市が継承し,矢巾町との一般広域水道企業団設立のメリットが失われたこと
    から,盛岡市,矢巾町がそれぞれ単独で利水参加することとした。なお,取水施設等
    は盛岡市と矢巾町の共同で対応する協定を締結している。
    以上のことから,岩手県が施策の一環として施工する多目的簗川ダムは河川法第17
   条に基づく兼用工作物であり,ダムから水道水の供給を得るためには,利水者は共同事
   業者としてダム開発に参加することとなり,盛岡市は基本協定書を締結した。
    また,平成13年度の変更協定書は,基本協定書第3条第2項及び第4条第2項の規
   定に基づき,平成13年度簗川ダム建設工事に係る費用の負担等について協定したもの
   である。
    これら基本協定書の締結及び締結に関する手続き等についての違法性又は不当性は
   認められない。
 (2)盛岡市水道事業第7次拡張計画変更認可について
    盛岡市長は,昭和63年1月14日に認可されている新庄浄水場建設を主とする第7次
   拡張事業の事業変更として,水道法第10条の規定に基づき,給水区域の拡張,給水人
   口及び給水量の増加並びに新規水源開発による水源種別,取水地点及び浄水方法を変更
   する「盛岡市水道事業変更(第7次拡張事業変更)認可申請」を平成5年11月16日厚
   生大臣(現厚生労働大臣)に申請し,平成5年12月17日に認可されている。
    事業変更の理由は,盛岡南地区開発,盛岡駅西口開発等の都市開発・整備及び盛岡市
   が平成4年4月1日に都南村と合併したことにより,市勢の発展が想定され,人口の増
   加及び水需要の増大が予想されることから,水道事業と簡易水道事業を盛岡市水道事業
    に統合し,給水の安定化,給水サービスの向上及び経営の効率化を図ることとし,第7
   次拡張事業として実施している新庄浄水場以降について,将来的に水量及び水質的に不
   安定な水源の統廃合,既に確保している御所ダム水源の開発,さらに新規参画する簗川
    ダム水源開発と当該ダム開発において取水施設から配水施設の一部までを矢巾町との
    共同施設により実施する平成28年度までの3期にわたる盛岡市水道長期計画により,
   給水区域の拡張,給水人口及び給水量の増加並びに新規水源開発による水源種別,取水
   地点及び浄水方法を変更するとしたものである。
    これら盛岡市水道事業第7次拡張計画の変更については,盛岡市水道事業の整備に関
   する水道行政の施策であり,意思決定は,議会の議決によるもので,盛岡市長の政策の
   選択決定の違法性又は不当性について判断をすることはなじまないものである。
  (3)盛岡市長の予算執行等について
    簗川ダム建設事業に関する盛岡市水道事業出資金の支出について盛岡市長は,平成13
   年度水道水源開発等施設整備補助金の国庫柿助交付決定を受け,総務省自冶財政局長通
   知「平成13年度の地方公営企業繰出金について」に基づき,盛岡市水道事業管理者か
    らの出資金の交付申請に対し,平成14年3月27日に出資金の交付決定をし,これに基
   づく出資金交付請求書により,同月28日に支出決定をし,同月29日に支出されたもの
    である。
     また,平成14年度盛岡市一般会計予算は,平成14年3月盛岡市議会定例会において
    議決を得ている。
    以上のことから,平成13年度の出資金の支出及び平成14年度予算について,違法性
   又は不当性は認められない。
    なお,盛岡市水道事業会計における継続費,簗川ダム負担金の支出,平成14年度水
    道事業会計予算については,前述の第3「1 事実関係の確諷 他 予算等について」
    のとおりである。
  他)水需要計画の見直しについて
    水需要計画の見直しは,第三次盛岡市総合計画後期実施計画と盛岡市水道基本計画後
   期実施計画の策定の指標とするために行ったものであり,計画策定における主たる事業
    となる御所浄水場の稼動時期を明確にすることを基本として行ったものであること及
    び人口予測は,平成元年から平成10年までの実績値に「水道施設設計指針」に示され
   ている5つの推計式を当てはめ,将来の社会情勢の変化や市勢の進展を考慮し,ロジス
   ティック式が妥当として採用したことは事実関係でも述べているところで,給水対象人
    口及び給水量は,産業経済の発展,社会情勢の変化により変動する数値であり,将来の
    推移を予測することは極めて困難であることから,客観的な資料に基づき,一般に妥当
    とされる推計式を採用したことが合理性を欠くものであるとは認められず,違法又は不
    当であったとすることはできない。
     また,請求人は,有形であるダムの使用期間が堆砂量により取水期間が短縮されるこ
   とをもって無駄が生ずる旨主張するが・水利使用は河川法によって定められ・水道事業
   が河川の流水を利用する場合には,河川管理者の許可を必要とし,許可により権利(水
  利権)を得るものである。
  この権利は,河川の流水等の公水を水道等一定の目的のため継続的かつ排他的に使用
  する一種の無形の財産権である。
  100年の大計のもとに建設されたダムのその後に係る使用予測は,著しく困難である
 が,調査によれば兵庫県神戸市にある布引五本松ダムは,明治33年に完成した日本最
 古のダムで,水道水の供給のため100年以上を経過した現在も使用している事実もある。
 有形であるダムは何時かの時点において,その使命を果たすことになるが,無形の財産
 権は,水道事業の使命が続く限り保有する権利であることから,これらを考慮した上で
 無駄に当たるか無駄に当たらないかが判断されるべきあり,これが違法であるか不当で
  あるかについての判断をすることはなじまないものである。
(5)基本協定書の変更協議について
  請求人は,盛岡市長が基本協定書第10粂の規定に基づく簗川ダムからの取水は当面
 必要がなくなった事情による変更の協議を怠ったと主張しているが,これは結局のとこ
  ろ,盛岡市水道事業変吏第7次拡張事業に基づく盛岡市水道事業の施策決定自体をとら
  えて主張しているものである。水資源の確保は,長期的観点から判断されるべきであり,
 施策の選択決定は盛岡市長の裁量権に属する事項であり,盛岡市長の裁量権を逸脱して
 いるものとは解されず,変更協議を怠ったままであるとする事実を認め得るものではな
  い。
(6)平成13年度の出資金の返還及び平成14年度の出資金の支出差し止めについて
   請求人は,盛岡市長が盛岡市水道事業会計に支出した平成13年度の出資金の返還及
  び平成14年度の出資金の支出差し止めを求めているが,盛岡市水道事業管理者が,出
  資金を必要とする原因である基本協定書の締結等の違法性,不当性は認められないとと
  もに,前述のとおり変更協議を怠ったとの主張は認められず,出資金は,「地方公営企業
  繰出金について」に基づき支出されるものであり,財務会計上の義務違反又は不当性も
  認められない。

 以上のことから,盛岡市水道事業会計への出資金の支出に対する請求人の主張には理由が
ないものと判断し,本請求については,これを棄却する。


付 言
 簗川ダムの建設に先立ち,根田茂地域の一部住民の移転が完了したところであるが,ダム
による利水・治水のためとはいえ,そのために地域の過疎化が進んだり,地域経済が停滞す
るようなことは好ましいことではない。
 地域を活性化するということは一朝一夕では困難なことでもあるので,ダムを中心とした
この地域が,盛岡の魅力的な新しい顔となるよう,長期的な視点に立った総合的な振興施策
の展開や環境整備に尽力されたい。
 また,今回の監査に際し,関係部課に関係書類の提出を求めたところ,決裁書類等におい
 て省庁の名称の記載誤り等が見られた。情報公開制度の普及に伴い,市民に正しい行政情報
 を提供するため,より適正な事務処理に努められたい。


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