14盛 監 第27号
平成14年8月15日
請求人
伊 勢 昭 一 様
盛岡市監査委員 本宮秀孝
同 高木智徳
同 村井欽司
同 土方誠子
盛岡市職員措置請求(盛岡市水道事業管理者に関する分)について(通知)
′平成14年6月20日付けで請求のあった地方自治法(昭和22年法律第67号。以下「法」とい
う。)第242条第1項の規定に基づく標記措置請求について,同法同条第3項の規定による監
査を行ったので,その結果を次のとおり通知します。
記
第1 請求の受理
本件請求は,所要の法定要件を具備していると認め,平成14年7月3日これを受理した。
第2 監査の実施
1 監査対象部課等
監査は盛岡市水道部を対象に実施した。
2 監査の期間
平成14年7月9日から平成14年8月9日まで
3 請求人の証拠の提出及び陳述
請求人に対して,法第242条第5項の規定により,平成14年7月16日に証拠の提出及
び陳述の機会を与えた。請求人は,証拠として次のものを提出し,請求の趣旨を補足する
陳述及び陳述書の提出を行った。
証拠の提出
・図「給水量と人口の推移」(簗川ダムからの取水分を加筆)
・岩手県公共事業評価委員会第3回県土整備部会資料「11盛岡市と矢巾町の水道計
画について」
・岩手県公共事業評価委員会第2回県土整備部会資料「4 費用対効果の算定につい
て」
・岩手県公共事業評価委員会第3回県土整備部全姿料「3 治水代替案の比較につい
て」
4 関係職員調査
盛岡市水道部の関係職員に対し,平成14年7月31日事情聴取を行った。
5 監査対象事項
措置請求書,事実証明書及び証拠の提出並びに陳述等から,監査請求の趣旨を次のよう
に解し,監査対象事項とした。
(1)基本協定と第7次拡張事業変更認可について
盛岡市水道事業者は,平成5年3月18日,河川管理者岩手県知事らと「粂川ダム建
設事業に関する基本協定」を締結(以下「基本協定書」という。)した。
これは,盛岡市水道事業第7次拡張計画変更認可に基づき,目標年次(平成28年度)
の給水人口を386,650人,1日最大取水量を210,960m3と予測し,不足分31,000m3/日
を簗川ダムから新たに取水しようと計画したことによる。
(2)基本協定書に定める事項及び予算等について
工事費概算額が340億円,盛岡市の負担割合は9.50%とされ,盛岡市水道事業管理者
は,平成4〜18年度,総額32億3,000万円の継続費を決定した。平成13年度は変更協
定書を締結し簗川ダム建設負担金として1億9,950万円を支出した。また平成14年度
水道事業会計予算においても1億2,350万円の支出を計上している。
(3)水需給計画の見直し,市長の議会答弁,請求内容を補足する陳述について
基本協定締結後における人口増の停滞,一人当たり原単位の伸び悩み等により予測と
現実の帝離が拡大したため,平成11年6月,盛岡市は水需給計画を見直した。
その結果,平成28年度の給水人口が311,500人,1日最大給水量が133,900m3とな
り,築川ダムからの取水を含まない給水能力の169,150m3でも約35,250m3の余裕が生
じ,将来の水需要に十分対応できることが明らかとなった。このことは,盛岡市が行っ
た水需給計画の将来人口予測において,5つの回帰式の中で最も当てはまりの良い修正
指数を採用せず,当てはまりの悪いロジスティック式を採用しているので過大な予測の
可能性が濃厚である。
盛岡市長が盛岡市議会において,簗川ダムからの取水開始は御所浄水場の稼動(平成
23年度予定)後おおむね40年から50年後と答弁していることから,相当期間にわたり
取水が不要となった事実を十分認識していることも明らかである。またダム建設事業は
100年間の堆砂量を見込んだ総貯水量をもとに設計されており,仮に将来において取水
が行われたとしても取水可能期間は大幅に短縮され多額の無駄が生じることは明らか
である。
(4)水道事業管理者の対応等について
水道事業管理者は,平成11年6月に行った水需給計画の変更に基づき,簗川ダム取
水計画を見直すべき責務を負っていた。しかるにこれを怠ったばかりではなく,水需要
見通しの変更を十分承知しながら,岩手県公共事業評価委員会県土整備部会において,
変更前水需給計画に基づいて設計されている簗川ダムの事業再評価にあたり,従来計画
通りの取水が必要として事業継続を求めた。
(5)違法又は不当な支出及び補足した陳述について
水道事業管理者は,簗川ダムからの取水は不要と理解していたにもかかわらず,簗川
ダム建設計画に反映させず,簗川ダム建設負担金を支出し,今後も支出しようとしてい
る。継続費計上額32億3,000万円に対して,平成74年に残存価値1億8,400万円の資
産を得る行為,及び岩手県が簗川ダム建設事業の代替案の一つとして検討した水道専用
ダムを建設すると仮定し,50年後に水道専用ダムを91億円で建設確保するとすれば現
在価値額は12億8,000万円と低い経費で済む結果となり,いずれの場合を想定しても
損害は多大である。また,広域的な必要性について,盛岡市水道事業会計が支出する負
担金は,あくまで盛岡市の利水参加分に係るもので,負担金支出は,盛岡市単独の水需
給計画に照らし判断されるべきものである。盛岡市が矢巾町や滝沢村の意思とは無関係
に将来の必要を勝手に掛酌して利水参加し,負担金を支出しているとすれば近隣町村の
自治権を侵害する行為で,盛岡市民の公益とは無関係な支出であり,水道事業管理者は
水道事業会計に違法又は不当な損害を与え,かつ今後も与えようとしている。
(6)措置請求内容について
水道事業管理者に対し,@平成14年4月10日付で支出した簗川ダム負担金の返還,
A平成14年度同負担金の支出差し止め,並びにB継続費で予定されている以後の支出
の差し止めを求める。
第3 監査の結果
1 事実関係の確認
(1)基本協定書について
岩手県は,昭和53年から北上川水系簗川の水害の防御,流水の正常な機能の維持,
かんがい用水,水道用水の供給及び発電を目的とする簗川ダム建設に係る予備調査,実
施計画調査をし,平成4年4月1日に簗川ダムが建設事業として採択されたことにより,
簗川ダム建設に関する工事を河川管理者岩手県知事,かんがい事業者岩手県知事,水道
事業者盛岡市長,水道事業者矢巾町長及び電気事業者岩手県企業局長の各利水者が共同
事業者としてダム開発をするため,平成5年3月18日に基本事項の協定を締結し現在
に至っている。
なお,基本協定書には,第2条第1項第4号で簗川ダム建設工事費概算額340億円が
定められ,同第3条第1項で共同工事の施工に要する費用の負担割合を定め,丙(盛岡
市水道事業者)の負担割合は,9.50%と定められている。
また,盛岡市水道事業者が基本協定書の締結に至るまでの過程は,次のとおりである。
昭和58年 3月 岩手県が未普及地域の解消,水道事業の再編成,水道広域化施設の
整備等の推進を目標とする「岩手県水道整備基本構想」を策定する。
この岩手県水道整備基本構想には,盛岡広域水道圏の昭和75年の
水需給について新ダム建設後も14,292m3/日不足すると予測している。
昭和59年 8月 岩手県水道整備構想に基づき,築川ダム,丹藤川ダムを開発水源と
する水道広域化の協議を行う盛岡広域水道圏連絡協議会(1市4町4
村による。以下「連絡協議会」という。)を設立する。
平成元年 6月 岩手県が盛岡広域水道圏域の1市4町4村に対し,簗川ダム,丹藤
川ダムへの利水及び広域化に関するアンケート調査を実施する。
盛岡市は,将来的なまちづくりに対応する水源として,第7次拡張
事業の新庄浄水場,第8次拡張事業の御所浄水場以降の水源として位
置づけ,18,000m3/日必要と回答する。
平成2年3月 岩手県に築川ダムに係る上水道利水計画の意思表示をする。
盛岡市18,000m3/日 矢巾町5,000m3/日 都南村20,000m3/日
滝沢村5,000m3/日(御所ダムと振替条件) 計 48,000m3/日
岩手県からダム利水上限値が36,000m3/日と示され,連絡協議会は
12,000m3/日の減量調善が必要となる。
平成 3年1月 連絡協議会が,次のことを了承する。
ア 御所ダムは,全量盛岡市が単独で開発すること。
イ 簗川ダム利水参加は,圏域南部の小ブロック化で対応すること。
平成 3年2月 連絡協議会が,次のことを了承する。
ア 簗川ダムへの参加を振替利水とする条件のもとに要望してい
た滝沢村が,利水参加を見送ること。
イ 調整を必要としていた12,000m3/日については,滝沢村の撤回
分5,000m3/日と盛岡市が残利水量7,000m3/日を減量すること。
平成 3年4月 連絡協議会が,次のことを確認する。
ア 丹藤川ダムは,構想段階であることから,具体化した時点で利
水参加の調査研究を進めること。
イ 簗川ダムは,利水参加をする、盛岡市,矢巾町及び都南村の3市
町村で一般広域水道企業団として参加すること。
平成4年3月 岩手県は,厚生省(現厚生労働省)と協議をし,ダム建設負担金の
国庫補助導入の了解を得たが,施設設備の一般広域水道企業団への新
規補助の採択はできないとされる。
平成 4年 4月 盛岡市と都南村が合併
平成4年10月 連絡協議会が,調整結果として,次のことを岩手県に報告する。
ア 丹藤川ダムは,まだ構想段階であるので将来ダム事業が具体化
した時点で特定広域化の企業団を目指すこと。
イ 簗川ダムは,盛岡市,矢巾町がそれぞれ単独で利水参加し,取
水施設など施設整備は共同で対応すること。
ウ 利水参加水量は,盛岡市31,000m3/日,矢巾町5,000m3/日と
すること。
平成4年12月 岩手県は,連絡協議会の調整結果を受けて厚生省(現厚生労働省)
と協議をし,了解を得たことにより,水道事業者に対し水道事業認可
事務を早急に取り進めることを指示した。
平成 5年 3月 基本協定書を締結
(2)平成13年度の変更協定書について
基本協定書第3条第2項及び第4条第2項の規定に基づき,平成13年度の共同工事
費の負担額について,平成13年7月5日に締結した協定書第3条第1項に定める「負
担額(うち丙(盛岡市水道事業管理者)の負担額1億7,100万円)」を「負担額(うち
丙(盛岡市水道事業管理者)2億3,750万円)」に変更する変更協定書を平成14年3月
14日に締結している。
(3)盛岡市水道事業第7次拡張計画変更認可について
盛岡市長は,昭和63年1月14日に認可されている新庄浄水場建設を主とする第7次
拡張事業の事業変更を平成5年11月16日厚生大臣(現厚生労働大臣)に申請し,平成
5年12月17日に盛岡市水道事業変吏(第7次拡張事業変更)認可されている。
変更後の主な内容
目標年次 平成28年度 計画給水人口 385,640 人
1日最大給水量 198,280m3
第1期 昭和63年度から平成7年度‥‥‥中津川水源開発
第2期 平成8年度から平成20年度‥‥‥御所ダム水源開発
第3期 平成21年度から平成28年度‥‥‥簗川ダム水源開発
事業変更の理由は,次のとおりである。
盛岡市が平成4年4月1日に都南村と合併したことにより水道事業と簡易水道事業
を盛岡市水道事業に統合し,給水の安定化,給水サービスの向上及び経営の効率化を図
るとともに,盛岡南地区開発,盛岡駅西口開発等の都市開発・整備と市村合併により市
勢の発展が想定され,人口の増加及び水需要の増大が予想されることから,第7次拡張
事業として実施している新庄浄水場以降について,平成28年度までの第3期にわたる
盛岡市水道長期計画により,将来的に水量及び水質的に不安定な水源の統廃合を行い,
既に確保している御所ダムの水源開発,さらに新規参画する築川ダム水源開発と当該ダ
ム開発において取水施設から配水施設の一部までを矢巾町との共同施設により実施す
るため行うものである。
このことから,給水区域の拡張,給水人口及び給水量の増加並びに新規水源開発によ
る水源種別,取水地点及び浄水方法を変更するものであり,以上の水道事業の変更に関
する意思決定に関しては,平成5年9月盛岡市議会定例会において,盛岡市水道事業の
設置等に関する条例の一部を改正する条例の議決を得ているものである。
(4)水道事業管理者の予算執行等について
@ 簗川ダム取水事業の継続費について
簗川ダム取水事業の継続費については,総額32億3,000万円と平成4年度から平
成18年度までとする年割額を定め,平成4年度盛岡市水道事業会計補正予算(第4
号)として平成5年3月盛岡市議会定例会において議決を得ている。
A 簗川ダム負担金の支出について
平成13年度簗川ダム建設負担金の変更協定書に基づく負担額の変更については,
平成13年度盛岡市水道事業会計補正予算(第2号)として,平成14年3月盛岡市議
会定例会において議決を得,平成14年3月29日に実施伺兼支出負担行為書に基づき
水道事業管理者の決裁を得た後,平成14年4月10日に岩手県知事に1億9,950万円
を支出している。
なお,当該変更協定書に基づく残額3,800万円は,平成13年度水道水源開発等施
設整備費補助金及び貸付金が厚生労働省の平成13年度繰越額となったことにより,
継続費逓次繰越額として平成14年度に繰越し,平成14年6月盛岡市議会定例会に平
成13年度盛同市水道事業会計継続費繰越計算書により報告している。
B 平成14年度予算について
平成14年度盛岡市水道事業会計予算は,平成14年3月盛岡市議会定例会において
議決を得ている。その予算内容のうち,1億2,350万円は資本的収入及び支出に係る
支出で,第1款資本的支出 第2項建設改良費 第5目水源開発費 第2節ダム使用
権分担金 細節ダム使用権として計上されている。
(5)水需要計画の見直しについて
水需要計画の見直しは,第三次盛岡市総合計画後期実施計画と盛岡市水道基本計画後
期実施計画の策定の指標とするために行ったものであり,計画策定における主たる事業
となる御所浄水場の稼動時期を明確にすることを基本として行ったものである。
水道部建設課が平成11年6月11日起案の「給水人口及び水需給に係る協議について
(報告・伺い)」文書に添付されている平成11年6月8日開催の「給水人口及び水需給
に係る協議報告書」の(2)水需要計画の見直しについてには,
・今後の水需要予測は,将来人口を回帰式により推計した値に,今後予測される新
規開発人口の加算割合(盛岡市以外からの流入人口分としての割合)を20%とした
場合の推計値を採用する。 −
・推計結果による御所浄水場稼働時期は,平成23年度となる。
・盛岡市水道基本計画後期実施計画から御所浄水場稼動を除く。
ことが協議の結果とされている。
水需要推計表によれば,平成28年度の給水人口は311,500人,1日最大給水量は
133,900m3,施設の給水能力は169,150m3/日である。人口予測は,平成元年から平成
10年までの実績値をもとに「水道施設設計指針」に示されている5つの回帰式により推
計したが,いずれも相関係数が高く,将来の社会情勢の変化や市勢の進展を考慮し,ロ
ジスティック式が妥当として採用した。
また,請求人は,「広報で市民1日当たりの水使用量を320必と発表しているのに,簗
川ダムでは516gと過大に計算している。」と陳述しているが,平成13年12月1日号広
報「水道もりおか」に掲載されているものは1人1日平均配水量332gであり,簗川ダ
ム取水事業のもととなった盛岡市水道事業第7次拡張計画変更認可の514包は1人1日
最大給水量である。
(6)盛岡市長の議会答弁について
平成13年9月盛岡市議会定例会の一般質問に対しての答弁で,その要旨は次のとお
りである。
@ 水需給計画の見直しを行い,平成28年度時点の給水人口及び1日最大給水量を予
測したこと。
A 御所浄水場の稼動予定を平成23年度とし,稼働率75%と考えていること。
B 簗川ダムから取水を行う時期は,現在の盛岡市の人口動態で単純に計算すると,御
所浄水場稼動後おおむね40年から50年後と考えていること。
C 広域的な対応は,岩手県水道整備基本構想で方針を示しており,盛岡広域水道圏に
おいても長期的には盛岡広域水道事業の創設が方向付けられていること。
D 水道の広域的防災対策は,岩手県水道広域的防災構想で実現可能な具体的防災対策
をとりまとめており,盛岡市においては,矢巾町,滝沢村と災害時の水道水を相互融
通できるよう整備していること及び今後も整備を進めること並びに簗川ダム水源は
広域的な必要があると考えていること。
E 簗川ダム取水計画に至る関係町村との協議経過についての説明
F 簗川ダムは,盛岡市周辺では水源開発可能な最後のダムと考え,ダムの貯水機能は
安定した水道水源とリスクに対する安全性向上等その効果が期待されること及び盛
岡市の50年,100年先を見据え,水道事業の使命を果たしていくために,簗川ダム水
源は長期的な水源として確保すべきであると考えていること。
(7)ダムの耐用年数と総貯水量に係る取水の関係について
岩手県は,平成3年8月に作成した「北上川水系簗川総合開発事業計画書簗川ダム」
の「11.貯水池使用計画(6)総貯水容量」の項において,有効貯水容量を19,600,000m3,
これに流域の状況等を考慮し,比堆砂量を200m3/km2/年,堆砂容量2,400,000m3を確保
し,総貯水容量22,000,000m3と計画している。このうち利水容量は,9,600,000m3(う
ち,水道用水3,800,000m3)である。
(8)岩手県公共事業評価委員会県土整備部会における盛岡市水道事業管理者の意見陳述
平成13年8月21日の岩手県公共事業評価委員会県土整備部会における意見陳述は次
のとおりである。
@ 簗川ダムについては,盛岡広域都市計画基本計画に対応するために計画された第7
次拡張事業第3期事業の水源として位置付けられており,この基本計画は盛岡広域都
市圏の人口を50万人,旧都南村を含めた盛岡市の人口を39万人として計画されてい
る。盛岡市は,将来的な水需要に備えて簗川ダムに利水参加した。
A 水需要への対応のほか簗川ダムについては,盛岡広域水道圏域で開発可能な最後の
ダム水源という観点から広域的対応のためにも有効な水源と考えている。また,岩手
県水道整備基本構想においては,計画的に水道広域化施設の整備を促進するという方
針が示されており,盛岡広域水道圏においても将来盛岡広域水道事業への統合が示さ
れている。簗川ダム水源が計画時点において,4市町村の水源とされていた経緯もあ
り広域的な観点からの位置付けについてそのような考慮が必要であると考えている。
圏域内の水源は本市が有している河川表流水,ダム水のほかは小規模な地下水源が多
くあることから安定した水源とは言えず,簗川ダムは,広域的に欠くことのできない
水源と考える。
B 簗川から取水している沢田浄水場は,貯留施設がないために渇水による影響が出や
すい状況にあり,今後温暖化が進み,少雨傾向が強まれば渇水の可能性が高まるが,
簗川ダムの完成により渇水の懸念が大幅に改善される。
C 上流にダムができることにより,水源汚染事故にも対応できる。
D 沢田浄水場の施設建設に当たっては,ダム建設を想定した上での事業であり,洪水
があれば施設に甚大な被害があることを懸念している。
E このように,簗川ダムの果たす役割については水道事業にとって単なる水需給にと
どまらず,広域的関係あるいはリスク回避の観点などから極めて有効な事業と考えて
いる。
F 本件について,厚生省(現厚生労働省)から事業評価の通知を受けたことにより,
県審議会から広域的な観点等も考慮すれば有効な事業と評価を受け継続事業とした
ものである。(議事録には「県審議会」と記載されているが「盛岡市水道事業経営審
議会」であることを確認した。)
G 今後事業費が約倍増することが水道料金にどのように跳ね返るのかなどを観点に
検討して参りたい。
(9)水道施設整備事業(簗川ダム取水事業)の再評価について
平成11年3月厚生省(現厚生労働省)から水道施設整備事業の再評価に係る通知を
受け再評価を行い,事業継続との結果となったものである。
再評価は国庫補助事業の実施主体である事業者が行うものとされ,再評価に当たり学
識経験者等の第三者機関から意見を聴取し,当該事業の継続の必要性の有無を判断し,
再評価の結果を厚生省(現厚生労働省)へ報告することとなっている。なお,盛岡市に
おいては,再評価を行う機関を設置していないことから,盛岡市長の諮問機関である盛
岡市水道事業経営審議会を「意見を聴取する学識経験者等の第三者機関」として再評価
を行ったものである。再評価の内容については,@採択後の事業をめぐる社会経済情勢
等の変化A採択後の事業の進捗状況等を踏まえた再評価Bコスト縮減及び代替案立案
等の可能性 となっている。この意見聴取は平成12年2月15日に開催した平成11年
度第2回盛岡市水道事業経営審議会に諮り,平成12年3月21日付けで盛岡市水道事業
経営審議会会長から「簗川ダム取水事業について事業継続」の意見書が提出され,「事
業継続」が平成12年3月27日市長決裁により決定されたものである。
(10) 違法又は不当な支出等について
@ 資産の残存価値は,資産の取得に要した経費を取得した年度に全額費用化することは
損益計算に影響するところが大きいため,収益費用対応の原則に基づき,固定資産の使
用により得られる収益に対応して,その使用期間全体に毎年の資産価値の減少に応じて
費用配分をし,償却資産の耐用年数の到来時において予想される当該資産の売却価格又
は利用価格であることから,取得した価格より安価になるものである。
なお,地方公営企業においては,固定資産の取得価格を,利用する各年度の費用とし
て費用配分を行い,それによって当該資産に投下された資本を回収し,損益計算や固定
資産の記録を合理的に行うために減価償却を採用している。
簗川ダム建設事業の代替案については,請求人が事実証明書として提出している平成
13年8月21日開催の平成13年度第3回岩手県公共事業評価委員会県土整備部会議事録
で岩手県河川開発監が説明しているところであり,その趣旨は,次のとおりである。
ア 水道用水の確保選定案で説明すると,一番最後の利水専用ダムが一番経済的になる。
イ 砂子沢サイトに河川環境の保全,既得用水の確保と水道用水,かんがい用水の3者
が共同したダムを造る。
り 水道用水の確保に限定するとすれば,この3者で利水専用ダムを造ってアロケーシ
ヨンした方が,83億円の負担で済む。
エ 水道単独で造ると91億円かかるが,3者で造ったトータルの金額207億円が利水
事業費207億円になっている。
オ これは不特定分,水道用水分,かんがい用水分が全部入った金額であり,ダムプラ
ス河川改修案の比較のベースに合ったものである。
カ 経済的で,短期間で整備が可能となり,実現性が高いダムプラス河川改修案が一番
有利と判断している。
A 熊川ダム取水事業は,第7次拡張事業第3期事業の水源として位置付けられ,長期的
なまちづくりに伴う将来的な水需要に備えて利水参加している。
飲料水の長期的かつ安定的確保は,健全な都市活動を営む上で極めて重要であり,都
市化の進展とともに生活圏の広域化が進む中で,広域的な視野に立つことは,水道事業
として必要であるとしている。
岩手県は,「新岩手県水需給計画中期ビジョン」及び「岩手県水道整備基本構想」を
策定し,広域的な水運用の推進の方向性を示している。
また,災害時対応の基本となる「岩手県水道広域的防災構想」が策定され,これを受
けて盛岡市と隣接する町村間において災害時に水道水を相互に融通することを可能と
する緊急連絡管の整備を図っている。
2 監査委員の判断
以上の事実確認に基づき,次のとおり判断した。
(1)簗川ダム建設事業に関する協定書について
簗川ダムは,北上川水系築川に多目的ダムとして建設されるもので,簗川総合開発の
一環として岩手県が施工するものである。
ダムは,洪水調節,流水の正常な機能の維持,かんがい用水,水道用水の供給,発電
を目的にするものであり,盛岡市が利水参加をするまでの主な経過は次のとおりである。
@ 昭和58年に岩手県は,「岩手県水道整備基本構想」を策定し,その中で「盛岡広域
水道圏」の昭和75年(平成12年)の水需給は新ダム建設後も不足すると予測してい
ることから,水道広域化を協議する「盛岡広域水道圏連絡協議会」を設立した。
A 岩手県が盛岡広域水道圏域に対して,簗川ダムへの利水調査を行った結果,圏域で
48,000m3/日(うち,盛岡市は18,000m3/日)を必要としたが,岩手県から利水上限
が36,000m3/日とされ,12,000m3/日(盛岡市は7,000m3/日)の減量調整をしている。
B 簗川ダムへの利水参加は,盛岡市,矢巾町,都南村の3市町村の一般広域水道企業
団とする確認がされていたが,その後,一般広域水道企業団には,施設設備の国庫補
助の新規採択はできないとされた。
C 平成4年4月盛岡市と都南村が合併し,都南村が利水参加表明している20,000m3/
日を盛岡市が継承し,矢巾町との一般広域水道企業団設立のメリットが失われたこと
から,盛岡市,矢巾町がそれぞれ単独で利水参加することとした。なお,取水施設等
は盛岡市と矢巾町の共同で対応する協定を締結している。
以上のことから,岩手県が施策の一環として施工する多目的簗川ダムは河川法第17
条に基づく兼用工作物であり,ダムから水道水の供給を得るためには,利水者は共同事
業者としてダム開発に参加することとなり,盛岡市は基本協定書を締結した。
また,平成13年度の変更協定書は,基本協定書第3条第2項及び第4条第2項の規
定に基づき,平成13年度簗川ダム建設工事に係る費用の負担等について協定したもの
である。
これら基本協定書の締結及び締結に関する手続き等についての違法性又は不当性は
認められない。
(2)盛岡市水道事業第7次拡張計画変更認可について
盛岡市長は,昭和63年1月14日に認可されている新庄浄水場建設を主とする第7次
拡張事業の事業変更として,水道法第10条の規定に基づき,給水区域の拡張,給水人
口及び給水量の増加並びに新規水源開発による水源種別,取水地点及び浄水方法を変更
する「盛岡市水道事業変更(第7次拡張事業変更)認可申請」を平成5年11月16日厚
生大臣(現厚生労働大臣)に申請し,平成5年12月17日に認可されている。
事業変更の理由は,盛岡南地区開発,盛岡駅西口開発等の都市開発・整備及び盛岡市
が平成4年4月1日に都南村と合併したことにより,市勢の発展が想定され,人口の増
加及び水需要の増大が予想されることから,水道事業と簡易水道事業を盛岡市水道事業
に統合し,給水の安定化,給水サービスの向上及び経営の効率化を図ることとし,第7
次拡張事業として実施している新庄浄水場以降について,将来的に水量及び水質的に不
安定な水源の統廃合,既に確保している御所ダム水源の開発,さらに新規参画する簗川
ダム水源開発と当該ダム開発において取水施設から配水施設の一部までを矢巾町との
共同施設により実施する平成28年度までの3期にわたる盛岡市水道長期計画により,
給水区域の拡張,給水人口及び給水量の増加並びに新規水源開発による水源種別,取水
地点及び浄水方法を変更するとしたものである。
これら盛岡市水道事業第7次拡張計画の変更については,盛岡市水道事業の整備に関
する水道行政の施策であり,意思決定は,議会の議決によるもので,盛岡市長の政策の
選択決定の違法性又は不当性について判断をすることはなじまないものである。
(3)水道事業管理者の予算執行等について
平成13年度築川ダム建設負担金の変更協定書に基づく負担額の支出については,平
成14年3月27日に岩手県知事からの請求を受け,平成14年3月29日に実施伺兼支出
負担行為書に基づき水道事業管理者の決裁を得た後,平成14年4月10日に岩手県知事
に1億9,950万円を支出している。
なお,継続費逓次繰越額として平成14年度に繰越した残額3,800万円は,平成14年
4月16日に岩手県知事からの請求を受け,平成14年4月16日に実施何兼支出負担行
為書に基づき水道事業管理者の決裁を得た後,平成14年5月20日に岩手県知事に全額
支出している。
また,平成14年度盛同市水道事業会計予算は,平成14年3月盛岡市議会定例会にお
いて議決を得ている。
以上のことから,平成13年度の簗川ダム建設負担金の支出及び平成14年度予算につ
いて,違法性又は不当性は認められない。
(4)水需要計画の見直しについて
水需要計画の見直しは,第三次盛岡市総合計画後期実施計画と盛岡市水道基本計画後
期実施計画の策定の指標とするために行ったものであり,計画策定における主たる事業
となる御所浄水場の稼動時期を明確にすることを基本として行ったものであること及
び人口予測は,平成元年から平成10年までの実績値に「水道施設設計指針」に示され
ている5つの推計式を当てはめ,将来の社会情勢の変化や市勢の進展を考慮し,ロジス
ティック式が妥当として採用したことは事実関係でも述べているところで,給水対象人
口及び給水量は,産業経済の発展,社会情勢の変化により変動する数値であり,将来の
推移を予測することは極めて困難であることから,客観的な資料に基づき,一般に妥当
とされる推計式を採用したことが合理性を欠くものであるとは認められず,違法又は不
当であったとすることはできない。
また,請求人は,有形であるダムの使用期間が堆砂量により取水期間が短縮されるこ
とをもって無駄が生ずる旨主張するが,水利使用は河川法によって定められ,水道事業
が河川の流水を利用する場合には,河川管理者の許可を必要とし,許可により権利(水
利権)を得るものである。
この権利は,河川の流水等の公水を水道等一定の目的のため継続的かつ排他的に使用
する一種の無形の財産権である。
100年の大計のもとに建設されたダムのその後に係る使用予測は,著しく困難である
が,訴査によれば兵庫県神戸市にある布引五本松ダムは,明治33年に完成した日本最
古のダムで,水道水の供給のため100年を経過した現在も使用している事実もある。有
形であるダムは何時かの時点において,その使命を果たすことになるが,無形の財産権
は,水道事業の使命が続く限り保有する権利であることから,これらを考慮した上で無
駄に当たるか無駄に当たらないかが判断されるべきあり,これが違法であるか不当であ
るかの判断をすることはなじまないものである。
(5)「水道事業管理者が水需給計画の変更に基づき簗川ダム取水計画を見直すべき責務を
怠ったばかりでなく,岩手県公共事業評価委員会県土整備部会においての簗川ダムの事
業再評価に当たり,従来計画通りの取水が必要として事業継続を求めた」とすることに
ついて
水道事業管理者は,岩手県公共事業評価委員会県土整備部会で,結論として「簗川ダ
ムの果たす役割については水道事業にとって単なる水需給に止まらず広域的関係ある
いはリスク回避の観点などから極めて有効な事業と考えている。本件について,厚生省
(現厚生労働省)から事業評価の通知を受けたことにより,盛岡市水道事業経営審議会
から広域的な観点等も考慮すれば有効な事業と評価を受け継続事業としたものであ
る。」と述べているが,これは,厚生省(現厚生労働省)通知による水道施設整備事業
の再評価を行い,平成12年3月21日付けで盛岡市水道事業経営審議会会長から「簗川
ダム取水事業については事業継続とする。」との意見書が提出され,「事業継続」が平成
12年3月27日付けで市長決裁により決定されたことによるものであり,岩手県公共事
業評価委員会県土整備部会において水道事業管理者がその結果を代弁したもので何ら
違法・不当であるとは言えないものである。
(6)違法又は不当な支出等について
@ 請求人は,水道事業管理者が簗川ダムからの取水は不要と理解していたにもかかわ
らず,簗川ダム建設に反映させず,支出し,支出させようとしていることは違法又は
不当と主張するが,見直しの趣旨は,前述の第3「1 事実関係の確認(5)水需要
計画の見直しについて」のとおり,盛岡市水道事業第7次拡張計画変更の第2期事業
としている御所浄水場の稼働時期を明確にし,第三次盛岡市総合計画後期実施計画と
盛岡市水道基本計画後期実施計画の策定に反映するためであり,簗川ダムからの取水
は,将来の水源として位置づけ盛岡市水道事業第7次拡張計画変更第3期事業に予定
していることから必要とするものである。
見直しの目的が異なるものをもって建設途上にある築川ダム建設に反映させるこ
とは合理性に欠けることとなり,反映させないことの支出等の違法性又は不当性は認
められない。
A 請求人は,継続費計上額に対して,残存価値の資産を得ること及び仮定として50
年後に水道専用ダムを建設確保するとすれば現在価値額は低額で,いずれの場合でも
ダム負担金より低い費用で済むから,水道事業会計に与える損害は多大であると主張
するが,前述の第3「1 事実関係の確認 吐功 違法又は不当な支出等について」の
とおり,確かに残存価値は投資経費に対して減少するものであるが,継続費に計上し
ている簗川ダム建設事業費の総額32億3,000万円は,平成4年度から平成18年度の
期間の年割額を定め,単年度ごとの執行予定額となるものであり,その執行結果は,
平成13年3月31日現在の水道事業会計の財務諸表の貸借対照表に無形固定資産の建
設仮勘定として1,129,613,010円が資産管理されているもので平成18年度まで継続
するものである。これは,ダムが完成したときに無形固定資産のダム貯留権として管
理されることになる。
なお,有形固定資産にあって,米内浄水場緩速ろ過池等は盛岡市の水道創設期の施
設であり,当時の投資額に対する現在の帳簿上の残存価値はなしに等しいが,国の文
化財保護法に基づく有形文化財に登録され,現在も脈々と水造りをし,市民の日常生
活等に水を供給していることは,投資経費(金銭)で換算できない恩恵を受けている
ことも事実としてある。すると請求人が主張している有形固定資産の残存価値が投資
額に対して低額になることをもって,先行投資しているダム負担金を損害とする価値
評価の主張は取り入れることはできないものと判断する。
次に,請求人は,仮説として50年後に水道専用ダムを建設確保する現在価値額が
ダム負担金よりかなり低い費用で済むと主張するが,第3「1事実関係の確認 吐功
違法又は不当な支出等について」のとおり,岩手県公共事業評価委員会県土整備部会
では,単独で水道専用ダムを造るより簗川ダム建設事業が経済的であることが説明さ
れている。すると事実証明として提出されている当該部会の議事録等,岩手県の説明
資料による仮説をもってダム負担金の支出が損害を与える行為との主張についての
適否判断はできないものである。
B 請求人は,広域的な必要性について,盛岡市水道事業会計が支出する負担金はあく
までも盛岡市の利水参加分に係るものと主張するが,盛岡市水道事業会計が支出する
簗川ダム建設負担金は,盛岡市が簗川ダムから水道水の供給を得るため共同で建設す
ることを締結した基本協定書及び基本協定書第3条第2項及び第4条第2項の規定
に定める協定に基づき,岩手県知事に対して財務会計法規に従い適正に支出している。
次に,負担金支出は,盛岡市単独の水需要計画に照らし判断されるべきものである。
盛岡市が矢巾町や滝沢村の意思とは無関係に,将来の必要を勝手に掛酌して利水参加
し,負担金を支出しているとすれば近隣町村の自治権を侵害する行為で,盛岡市民の
公益とは無関係な支出であると主張するが,簗川ダム建設負担金の支出は前段のとお
りであり,盛岡市水道事業変更認可(第7次拡張変更)に基づく「水道水源開発等施
設整備費国庫補助金」の交付決定を得て築川ダム取水事業を執行しているもので,安
定給水が水道の最大の使命とされていることを鑑みると,これを子々孫々まで引き継
ぐことが公益に資すること及び盛岡市が取水する河川の源はいずれも隣接する町村
こであり,利水に最良に恵まれた地を有しているからこそ,ルールにのっとり広域的な
供給を視野に入れて経営を進めることが必要であり,請求人の主張は認めることがで
きないものである。
(7)平成13年度の簗川ダム負担金の返還及び平成14年度同負担金の支出差し止め並びに
継続費で予定されている以後の支出の差し止めについて
請求人は,盛岡市水道事業管理者が岩手県知事に支出した平成13年度の簗川ダム建
設負担金の返還及び平成14年度の同負担金の支出差し止め並びに継続費で予定されて
いる以後の支出の差し止めを求めているが,当該負担金は,基本協定書第3条第2項及
び第4条第2項の規定に基づく協定書により負担するものであり,協定書の締結手続き
に違法又は不当はなく,かつ,簗川ダム建設負担金の支出についての財務会計上の義務
違反又は不当性も認められない。
以上のことから,簗川ダム建設負担金の支出に対する請求人の主張には理由がないものと
判断し,本請求については,これを棄却する。
付 言
今回の監査に際し,関係書類の提出を求めたところ,決裁書類等において記載誤り等が見
られた。情報公開制度の普及に伴い,市民に正しい情報を提供するため,より適正な事務処
理に努められたい。