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平成13年10月12日
請求人
     伊 勢 昭 一 様
盛岡市監査委員 本宮秀孝
同       高木智徳
同       村井欽司
同       土川誠子
盛岡市職員措置請求について(通知)

 平成13年9月10日付けで請求のあった地方自治法(昭和22年法律第67号。以下「法」という。)第242条第1項の規定に基づく標記措置請求については,次のとおり却下することと決定したので通知します。

                            記

 住民監査請求は,地方公共団体の執行機関又は職員による違法又は不当な行為等により当該地方公共団体の住民として損失を被ることを防止するために,住民全体の利益を確保する見地から,職員の違法,不当な行為等の予防,是正を図ることを目的としている。
 法第242条第1項に規定する財務会計上の行為は,違法又は不当な@公金の支出,A財産の取得,管理若しくは処分,B契約の締結若しくは履行,C債務その他の義務の負担があると認められるときの4種類の行為であり,当該行為がなされることが相当の確実さをもって予測される場合も含まれるものとされている。そして「当該行為がなされることが相当の確実さをもって予測される場合」とは,単にその可能性が漠然と存在するというだけでなく,その行為の可能性,危険性等が相当の確実さをもって客観的に推測される程度に具体性を備えていることを指し,具体的実施計画の策定や予算措置を講じるなど当該行為が行われる法的評価に値する契機,原因が認められる場合とされ,ており,これらの行為に該当しなければ住民監査請求の対象とはなり得ないものである。

 本件の監査請求(以下「本件請求」という。)について請求の要旨を,次のとおり整理する。

(1)盛岡市水道事業者盛岡市長は,平成5年3月18日,河川管理者岩手県知事等と「築川ダム建設事業に関する基本協定」を締結した。工事費概算額340億円,盛岡市の負担割合は9.5%とされている。これは,盛岡市水道事業第7次拡張計画変更認可に基づき,築川ダムから新たに取水しようと計画したことによる。

(2)平成11年6月,盛岡市は水需給計画を見直した結果,将来の水需要に十分対応できることが明らかになり,簗川ダムからの取水がなくても平成63年度まで水需要に対応できることになる。したがって,盛岡市自身が,簗川ダムからの取水は必要がないと予測している。

(3)国土庁は,生活用水需要を見直し,平成12年度予測から大幅に引き下げたことにより,岩手県も岩手県水需給計画を見直し中であり,盛岡市も遅くない時期に計画の変更を余儀なくされることが十分に予見される。

(4)簗川ダム建設事業は,工事内容の変更により事業費が約倍増し,岩手県によれば盛岡市の負担額が6,365百万円に増加するとされている。

(5)岩手県公共事業評価委員会は,再評価にあたって盛岡市水道事業者から意見を聴取したが盛岡市は自らの水需要見通しの変更にも関わらず,築川ダムからの取水が必要として事業の継続を求めた。

(6)以上により、「簗川ダム負担金の支出は,不要な支出であるとともに,水道事業計画の変更により無駄な支出となることが予見される。したがって本支出行為は違法または不当な支出にあたるので,その差し止めを求める。また,簗川ダム建設事業に関する基本協定の変更協議にあたっては,利水事業から撤退することを求める。」としている。

 したがって,請求人は,いずれも水道事業者が行った行為又は行おうとしている行為についての監査を請求していることが認められるので,行為者である盛岡市水道事業者と盛岡市水道事業管理者について確認する。
 水道事業は,水道法(昭和32年法律第177号)第6条第2項の規定により,原則として市町村が経営するものとしている。
 このことから,水道事業の経営を厚生労働大臣(旧厚生大臣)の認可を受け,盛岡市が水道事業者となり,法第2条に規定する盛岡市の自治事務として,水道事業を経営し,その代表が盛岡市長であることを確認した。
 自治事務である盛岡市が経営する水道事業は,地方公営企業として,法第263条の規定により法に対する特例として地方公営企業法(昭和27年法律第292号。以下「地公企法」という。)によって規整されている。
 地公企法第7条第1項は企業の業務を執行するため管理者を置くと規定し,同法第8条第1項において管理者は,その企業の執行に関し,当該地方公共団体を代表するとしている。また,同法第16条は,「地方公共団体の長は,‥・当該管理者以外の地方公共団体の機関の権限に属する事務の執行と当該地方公営企業の業務の執行との間の調整を図るため必要があるときは,当該管理者に対し,当該地方公共企業の業務の執行について必要な指示をすることができる。」と規定していることから,水道事業の運営の大綱についてのみ市長が有する権限であることが確認できる。
 次に,住民監査請求の対象については,具体的な機関又は職員の具体的な財務会計上の行為又は怠る事実に限られるとされている(昭和51年3月30日の最高裁第三小法廷判決)ことから,築川ダム負担金の支出をする権限を有するものが行った具体的な財務会計上の行為に当たるかを確認する。
 水道事業者の代表である盛岡市長(以下「盛岡市長」という。)が,、「簗川ダム建設事業」の共同事業者として盛岡市が事業参画することについて,平成5年3月18日「築川ダム建設事業に関する基本協定書」を取り交わし,当該協定締結後,水道法第7条の規定に基づき,給水区域の変更と簗川ダムからの取水を計画とする「盛岡市水道事業変更(第7次拡張事業変更)認可申請」を提出し,厚生労働大臣(旧厚生大臣)から平成5年12月17日認可を得たことを確認した。また,請求の要旨にある岩手県公共事業評価委員会においては,盛岡市長の代理として盛岡市水道事業管理者が平成13年8月21日に「平成13年度第3回岩手県公共事業評価委員会県土整備部会」に出席し,簗川ダム建設事業の利水計画に変更がない旨,説明したことを確認した。
 これら,盛岡市長の行った行為は,いずれも自治事務である水道事業遂行に伴う行政上の行為であること,また,盛岡市が経営する企業である水道事業は,前述のとおり法の特例として定められた地公企法が適用されるもので,盛岡市長は水道事業の総合的な調整権限を有するが,簗川ダム負担金の支出を行う権限を有していないことを確認した。
 以上のことから,本件請求の簗川ダム負担金の差止め請求は,一般行政上の行為についての監査請求であり財務会計上の行為とは認められず,また,本来の財務会計上の行為者である盛岡市水道事業管理者と盛岡市水道事業者を同一の者とし財務会計行為者が特定されていないものであり,盛岡市水道事業管理者の行為についても,その具体的な財務会計上の行為を特定していないものである。
 簗川ダム負担金は,平成5年3月18日締結の「簗川ダム建設事業に関する基本協定書」に基づき,平成4年度から継続して支出されているが,請求人はこれまでの支出行為についての違法・不当の言及をしておらず,事業主体である岩手県が平成13年8月21日に開催した「平成13年度第3回岩手県公共事業評価委員会県土整備部会」において,「簗川ダム建設事業について事業継続とする。」との審査結果が示されたことに起因した事業費の増加に係る将来の差し止めを請求しているものであるが,当該委員会においては,事業継続とすることに「今後事業内容に大幅な変更があり,再評価を実施する必要があると判断した場合には,再度再評価を実施すること。事業費の縮減に全力で取り組むこと。」等の意見を付していることから,当該委員会の決定のみをもって,当該行為がなされる可能性について相当の具体性を備えているとはいえず,違法,不当な公金の支出が確実に予測崩されるとは認められないものである。
 また,「簗川ダム建設事業に関する基本協定の変更協議にあたっては,利水事業から撤退することを求める。」としているが,法第242条第1項に規定する財務会計上の行為又は怠る事実のいずれにも該当しないものである。
 したがって,本件請求は,法第242条第1項に規定する住民監査請求となる法的要件を具備していないことにより不適法なものである。

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