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県に質問書を提出しました。内容は以下の通りです。


平成13年8月20日
岩手県知事
  増 田 寛 也 様

〒020-0861 盛岡市仙北2の20の2      
八幡 つぐ子 気付 TEL 635-9320
簗川ダムを考える市民の集い世話人(五十音順)
伊勢 志穂  盛岡市議会議員、市民会議 
井上 博夫  市民オンブズマンいわて代表
庄子 春治  盛岡市議会議員、日本共産党
外川  正  岩手自然の会       
八幡 つぐ子 (財)日本野鳥の会評議員

 
簗川ダム建設に関する質問

 私たちは、簗川ダム建設による影響について考えることを目的とした市民の集いです。この度、岩手県から提供していただいた資料の閲覧ならびに簗川ダム建設予定地域の自然観察を通していくつかの疑問を感じました。つきましては、それらの疑問点を下記の質問事項としてとりまとめましたので、お答えいただきたく存じ上げます。
 恐れ入りますが、ご回答は、8月末日までにお願い申し上げます。
 なにとぞよろしくお願い申し上げます。

質問1.生態系への影響について

1.岩手県環境基本計画について
 簗川ダム建設は、「イーハトーブの大地を将来の世代へ」という「岩手県環境基本計画」の理念に矛盾していると思います。見解をお示しください。

2.地元学や自然環境教育の場
 簗川ダム周辺環境調査資料(2001,7,27)によれば、植物789種(注目すべき35種を含む)、哺乳類14種、鳥類77種、昆虫類1280種、両生・は虫類17種、水生生物148種が確認されています。この中には絶滅危惧種、危急種、国内希少種、環境省特定植物群落、主要野生動物などの貴重な生態系が現存していることが報告されています。
 この地域は動植物の多様性が豊で優れた自然環境が保全されているため、たくさんの人たちに釣りや散策などを通して愛されてきました。さらに、交通の至便性が良いため、自然環境教育フィールドとしての利用価値は計り知れないものがあります。
 たくさんのいのちを育んできた簗川・根田茂川流域の豊かな自然を水没させることと、「夢県土いわて」が提唱する「環境首都創造いわて県民宣言」や「地元学」の推進政策と矛盾しないのでしょうか。見解をお示しください。

3.優れた自然環境を表す猛禽類などの保全
 根田茂川流域にはオシドリ(県レッドデータDランク)が生息し、上流部では繁殖しています。また、この鳥の捕食者となるクマタカ(Aランク)の繁殖、とオオタカ(Bランク)の生息が確認されているほど優れた自然環境が保全されています。これらの鳥類などの生存を支える採餌エリアとなる斜面のケヤキ林、トチ、サワグルミ林、
ミズナラ林、アカマツ林など多種の森林や渓流の生物の多様な連鎖によって構成される生態系の多くの部分が、ダム建設によってバランスを失い、直接的影響を受けることは必至とみられます。
 この生態系に及ぼす影響をどのようにして防止するのでしょうか。
 とくにクマタカなどの猛禽類および希少な鳥類の有効な保全について既存ダムでの成功例があればお示し下さい。

4.渓流に生息する小動物のためのビオトープについて
 止水域や樹林性の昆虫類、小動物を対象としたビオトープの創造はある程度可能と思われますが、急流を伴う渓流性の生物環境を人工的に創出することは限界があり、ダム計画との景観などとのマッチングの問題も派生すると思われます。
 これらの課題にどのように対処するのでしょうか。
 また、相当の施設費、管理費などのコストを見込まざるを得ません。自然豊かな現況の渓流の本物の生物環境を保全することこそ優先されるべきです。アメリカやドイツでは、20世紀のダム設置は誤りだったという考えに基づいて既存のダムを解体して旧河川の環境にもどす事業が取り組まれ、そのことが世界的な潮流になりつつあることを重視する必要があると思いますがどのようにお考えですか。

5.ダム完成後の魚類、カワネズミ、渓流性鳥類などへの影響
 簗川ダム周辺環境調査資料No.8でも予測している通りダム完成後には水質や流況の悪化によってサクラマスやサケ、イワナなどの魚類やカワネズミ(Dランク)の生息に大きなダメージを与え、餌となるこれらの魚類や水生昆虫の減少によるヤマセミ(Dランク)、カワセミ(Dランク)、カワガラスなどの渓流性鳥類の減少につながります。これらについて見解をお示しください。

質問2.ダム建設事業費について
 当初の簗川ダム建設事業費340億円が670億円へと約2倍に膨れ上がったと伺いました。どうしてそのような不備が生じたのか明示して下さい。

質問3.費用対効果分析における被害軽減額について
 事業再評価調書では、ダム完成以降(平成25年度以降)の年平均被害軽減額(ダムができれば洪水被害が少なくなると期待される額)39億6,100万円をもとに費用便益比1.46と推計しています。また、その根拠となっている「平成12年度簗川ダム治水経済調査検討中間報告」によれば、10年に一度の確率の被害額ですら、105億7,800万円と想定されています。
 しかし、当該流域における既往災害実績は、1975年度以降の26年間に10件、総額9億4,600万円であり、年平均被害額は3,600万円と再評価調書における想定の1/100以下に過ぎません。しかも既往災害は河川改修が実施される以前に発生したものであり、改修事業がほぼ完成した現在では、被害想定額はさらに低下していると考えられます。
 被害想定額と現実の被害額との大きな乖離をどのように理解すべきかお答え願います。
 また、実績被害額に近い被害軽減額をもとに費用便益比を求めれば1を大きく下回ることが明らかであり、事業の社会的効率性を考慮して代替案を検討すべきということになりますが、お考えをお聞かせ下さい。

質問4.基本高水流量について
1.「簗川ダム治水経済調査中間報告」平成13年7月では、流出解析に基づき基本高水流量を、それぞれ1/100:773m3/s(693m3/s),1/50:634m3/s(568m3/s),1/20:455m3/s(408m3/s),1/10:324m3/s(291m3/s),1/5:204m3/s(183m3/s)としています(括弧内は8.2km〜12.4km区間)。しかし小屋野測水所の実測データによれば、1970年〜1988年の19年間における最大流量は90.00m3/sに過ぎません。基本高水流量の設定があまりにも過大と思われますが、ご意見をお聞かせください。
2.治水安全度1/100で設計されていますが、全体計画書において求めた1/100確率は計画降雨210mmのそれであり、そこから安全側に推定を重ねて高水流量780m3/sを導き出しています。推計の過程で実測値から乖離した過大な流量になってしまったのではないか、換言すれば、780m3/sは1/100よりも相当小さな確率になるのではないかと思いますが、如何ですか。
 
質問5.治水安全度1/100の妥当性について
 この流域において1/100の治水安全度を設定することは妥当でしょうか? 河川改修と都市計画により、より低い治水安全度で現況の環境を保全するのも選択肢の一つと思いますが、ご意見をお聞かせください。
 
質問6.ダム+河川改修の効率性について
1.評価委員会の場で、県は、河川改修340m3/s+ダムが最も費用効率的であると説明しました。しかしそれは当初計画(「全体計画書」平成9年3月)におけるダム事業費曲線と河川改修事業費曲線を前提とした場合であり、ダム建設事業費が約2倍となった現在、当初予定したダム高は費用非効率となっており、県の説明は誤っていると考えます。ご意見をお聞かせください。
2.評価委員会に提出された代替案の検討において、河川改修単独案の総事業費は約597億円とされています。しかし、平成9年3月の「全体計画書」では、780m3/sを前提とした河川改修の事業費を約364億円と見積もっていました。同じ流量を設定しているにもかかわらず、なぜ今回、河川改修事業費が大幅に引き上げられたのでしょうか?その理由をお聞かせください。

質問7.ダムの碓砂について
1.計画ではダムからの排砂を予定せず、100年間の碓砂量2,400,000m3で設計されています。設計碓砂量を満たした後は、どのような措置を考えていますか? また、費用便益分析の費用項目に碓砂に対する措置費も算入すべきと考えますが、如何ですか?
2.仮に排砂するとすれば、ダムの排砂には、砂などの無機質のものだけでなく、落ち葉などが未分解のままヘドロ状になったものが含まれているそうです。富山湾ではそのようなダムの排砂によって漁業に被害が発生していると伝えられています。簗川ダムの場合そうしたおそれはないのでしょうか?

質問8.簗川ダム事業概要について
 簗川ダム建設事務所によりますと、簗川ダム事業概要において「流域は内陸性の気候を示し、降雨量は年平均1,279mmで梅雨期・台風期に多くなっています。特に台風期の豪雨では毎年のように洪水の被害をうけており、近年、沿川の市街化が進むにつれ、その被害は増加の傾向にあります。」とされております。
 しかし、同地域におけるこの15年間に発生した災害は、平成2年9月の台風19号による一回のみです。
 「毎年のように洪水の被害をうけており」「その被害は増加の傾向にあります」とありますが、それらは事実に反する記載と考えられます。事業概要の記載内容と事実との間に相違が生じた理由を明示してください。

質問9.貯水池水質について
 簗川ダム事業目的の中に「流水の清潔の維持等を行い」とあります。しかし、ダム貯水池においては、成層形成と中栄養状態が予測されることから、水質は悪化することが危惧されますがいかがでしょうか。
 一方、冷水対策として選択取水設備の採用が不可欠であることがうたわれてますが、その採用は明記されておりません。また、たとえ採用されたとしても水質悪化を防止できるか否かについては不明です。さらに、貯水池水質シュミレーション実施の必要性が指摘されています。
 このような調査結果報告と対策において、簗川ダム事業目的である「流水の清潔の維持を行い」は実現可能でしょうか。その見解と根拠をお示しください。

質問10.簗川ダムの利水計画について

1.北上川宮野目地区の水量調節について
 花巻宮野目地区に必要とされている農業用水1,037m3/sについて、減反によって発生した農業用水減少分は差し引かれているか否かを明示してください。

2.行政区域内人口予測について
 平成28年度の行政区域内予測人口 416,380人
 現況(平成7年度) 305,108人
 現況(平成12年度) 306,051人
 このところの盛岡市の人口数の推移および少子社会の状況から推測して、これだけの規模の人口増加は極めて希有と思われます。このような人口増加が生じるとする根拠および実例がありましたなら提示してください。
  現に、盛岡市水道部は平成11年度に行った水道事業計画の見直しにおいて、平成28年度の盛岡市の行政人口を約315,000人とし約70,000人分の下方修正を行っており、矢巾町も含む行政区域内人口予測も大幅な下方修正が必要となっているのではないでしょうか。ご見解を伺います。

3.一人当たりの給水計画について
 平成28年度の計画給水量 516L/日/人
 現況(平成7年度)最大 387L/日/人
 現況(平成12年度)最大 399L/日/人
 一人当たり水道水消費量の削減対策が全国的規模で取り組まれています。このような状況下で、これほどの一人当たり水道水消費量の増加が妥当か否か見解をお示しください。また、これについて関係機関の了承を得ることは可能なのか否か、見解をお示しください。
 盛岡市水道部が平成11年度に行った事業計画の見直しにおいては、盛岡市の平成23年度(御所浄水場稼働時予定)時における一人当たり一日最大給水量を約423Lと見込んでおり、先の6月定例市議会本会議(6月21日)において水道事業管理者が答弁しております。また、この計画においては平成28年度におけるそれも約430Lを想定しています。計画給水量の下方修正が必要ではないでしょうか。見解をお示しください。

4.水需給計画について
 事業再評価調書で、「本事業は、岩手県総合計画(1999年)や新岩手県水需給計画(1996年)に位置付けられており、県では国に対し県議会とともに推進要望を行っている。」と述べていますが、国は新しい「全国総合水資源計画(ウォータープラン21)」(1999)を定め、「ウォータープラン2000(1987年策定)」における水需給見通しを大幅に引き下げました。さらに岩手県でも、岩手県水需給計画の見直し作業中と聞いています。であるならば、簗川ダム建設計画も新たに策定される水需給計画に基づいて再検討すべきと考えますが、ご意見をお聞かせ願います。

5.簗川ダムの給水計画について
  盛岡市水道部が平成11年度に行った事業計画の見直しに基づいて現実的に考えるならば一日36,000m3の水道水を給水するとした簗川ダムの給水計画は、平成7年度時点での見込みを大幅に下方修正すべきではないでしょうか。岩手県として責任を持った見直しを行うべきではないでしょうか。見解をお示しください。



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