いせ志穂 トップページへトピックス一覧
12月4日東京で開かれた中村さんの講演会の要旨を参加した方から頂きましたので掲載します。

12月4日東京  中村哲さん(ペシャワール会)講演要旨
(文責 市民会議)

 日本に流されたカーブル解放という映像は真っ赤な偽りである。アフガニスタン全土は無政府状態であり、食料援助のための物資は滞ってどこも入れない。爆撃の影響で一般市民が死んだということ以上の影響があり、おそらく数百万人の犠牲が出るだろう。それが実情だ。

……

 ああいう悲惨な状態にあっても子どもたちは暗い顔をしていない。写真で撮るととても募金が集まるとは思えないような笑顔をしている(笑)

 日本に帰ってくるとみんな暗い顔をしている。「どうして暗い顔をしているんだ」「不景気なんだ」「死者が出たのか」「いや餓死者はでていない」という。聞くところによると、ホームレスの人が糖尿病だとか、私よりもみなりがよかったりする。

 何も持たない人の楽天性といものがたしかにあるのではないか。持てば持つほど大体人間というものは暗くなる。

 あんな世界で最も貧しい、干ばつで死にかけている国を、武力もある金も持っている国が束になって、どうして叩くのか、私には分からない。

 敵というのは、自分の中にあるのではないか。

 (持てる国は)この攻撃によって何かを守ろうとしてるのだろうが、さらに大きな復讐をうけるだろう。戦火の中をひもじい思いをして逃げまどっている子ども達がつぎのテロリストの予備軍であると思う。

 貧しい人々が何かを表現しようとするとき、テロという形でしか表現できないという現実は確かにある。

 アフガニスタンの問題というのは、単に戦争反対とか、暴力はいけないということを超えたところにある。

 この干ばつの問題は人災である地球温暖化と非常に密接に関係している。人間の経済活動が無限に膨張することはありえない。どこかで歯止めがかかるとすれば、それはアフガニスタンの干ばつという事実を通して世界的な異変が起きてくるだろう。単に天変地異というのではなく、アフガニスタンが今、砂漠化して、1000万人が物理的な居住空間を失ったら恐ろしいことだ。これに付随する政治的混乱が出てくる。

 アフガニスタンの現実、アフガニスタンと世界とのかかわりについて、過去17年間をふりかえると、これは何か大きな破局の始まりであると思えてならない。

 一方で景気対策を、一方で環境問題を、というのは絶対成り立たない。経済活動を活発にすれば大気中の気温が上がる、環境が損なわれるのは分かり切っている。

 日本とアフガニスタンを比べたとき、一方では消費し、生産するということを不必要にしなければ成り立たない経済である。一方で、干ばつに苦しみながらも大地に根をはり、地面にはりついて与えられただけの恵みに感謝しながら生活している人々との対象をみると、単にテロリストどうのこうのという問題を超えた、もっと奥深いものを感じる。

 アフガニスタンというのは、私たちにとって戦争反対、平和というものを超えて、私たちの未来の鍵を握る何かを秘めているのではないか。

 これだけ情報があふれているのに、本当のことがなぜ伝えられないのか。人間というのは見ようとするものしか見られない。情報があふれるなかで、情報が多ければ多いほど、よほど気をつけて、何かを見ようとする意図的なものがなければいけない。

 「テロ」の用語についてはよくわからないけれども「ある政治目的のためにいっぱん市民をまきこむ暴力行為」のことを言うのなら、今アメリカがやっている空爆は、ニューヨークで起きたことの100倍、テロリズムであると思う。


●なかむら てつさん プロフィール
 医療援助NGO法人ペシャワール会現地代表、PMS(ペシャワール会・医療サービス)院長。国内の診療所勤務を経て1984年にパキスタン北部ペシャワールに赴任。以来17年間、ハンセン病のコントロール計画を柱に、主に貧民層の診療に携わる。ぺシャワール会では、98年にペシャワールに基地病院PMSを建設、現在アフガニスタンで8ヵ所、パキスタンで2ヵ所の診療所を運営している。著書に『ペシャワールにて』『ダラエ・ヌールへの道』『医は国境を越えて』(石風社)、『アフガニスタンの診療所から』(筑摩書房)。

アフガンいのちの基金
 ぺシャワール会では今、「アフガンいのちの募金」を呼びかけている。WFP(世界食糧計画)の食糧配給が本格化するにはなお時間がかかると予想される中で、100万都市カブールで生きて冬を越せない10万人の人々を対象に、小麦粉や食糧油などを送る計画だ。2000円で一家族(10人)が1ヵ月生きられるという。募金振込先は以下。
  アフガンいのちの基金
  【郵便振替口座】
   口座名 ぺシャワール会
   口座番号 01790-7-6559
       ※通信欄に「いのちの基金」と明記を。

いせ志穂 トップページへトピックス一覧